

認知症の親の不動産売却とは、判断能力が低下した所有者に代わり、法定後見・家族信託・任意後見のいずれかを使って自宅や土地を売る手続きです。
結論から言えば、親がすでに判断能力を失っているなら、家庭裁判所で成年後見人を選任するしか道はありません。自宅を売る場合は「居住用不動産処分許可」も必要で、申立てから決済まで半年前後を見込みます。まだ判断能力が残っているなら、家族信託という選択肢が生きています。
この記事のポイント
認知症の親の不動産を売る方法は、法定後見・家族信託・任意後見の3つです。ただし3つから自由に選べるわけではありません。親の判断能力が今どの状態かによって、選べる道は自動的に絞り込まれます。すでに判断能力を失っているなら、残る選択肢は法定後見ひとつです。
認知症の診断が出ていても、通常どおり売却できるケースは実際にあります。法律が問題にしているのは診断名ではないからです。民法3条の2は「意思能力を有しなかったとき」の法律行為を無効と定めており、判断されるのは診断書の病名ではなく、契約内容を理解できるかどうかという一点。
実務では決済日に司法書士が本人と面談し、意思確認を行います。ここで「この家を、いくらで、誰に売るのか」を本人の言葉で説明できれば、登記は通ります。逆に、面談で意思確認が取れなければ司法書士は登記申請を受けられず、決済は流れる。軽度認知障害(MCI)や初期の段階なら、この道が残っていると考えていいでしょう。
意思能力が失われていると判断された場合、正攻法は法定後見しかありません。家庭裁判所に後見開始を申し立て、選任された成年後見人が本人に代わって売買契約を結びます。ここに例外はなく、「家族全員が同意しているから」という理屈は法律上まったく通用しないのです。
そして見落とされがちなのが、後見人が付いても自宅は自由に売れないという点。民法859条の3により、居住用不動産の処分には家庭裁判所の個別許可が必要で、許可なしの売却は無効になります。買主にも仲介業者にも損害が及ぶため、不動産会社側もこの許可の有無は必ず確認します。
どのルートに進めるかは、親の状態でほぼ決まります。判断の入口を整理したのが次の表です。ここを取り違えると、時間も費用も無駄になります。
| ルート | 使える条件 | 家裁の関与 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| 通常売却 | 意思能力あり | なし | 軽度・本人が売却に納得 |
| 家族信託 | 契約時に意思能力あり | なし | 将来の凍結に先回りしたい |
| 任意後見 | 契約時に意思能力あり | 監督人の選任 | 身上監護もカバーしたい |
| 法定後見 | 意思能力を喪失後 | 選任+売却許可 | すでに手遅れになった場合 |
表を眺めて気づくことがあります。4つのうち3つが「意思能力があるうち」にしか使えないという事実。時間は一方向にしか流れません。ここがこの問題の残酷なところです。
焦って踏み込んではいけない領域があります。最も危険なのが、家族が親の名前で契約書に署名・押印してしまうこと。これは私文書偽造に問われる可能性があるうえ、売買契約そのものが無効になります。買主が住宅ローンを組んで引っ越した後に無効を主張されれば、損害賠償の話に発展しかねません。
もうひとつ、「後見人を付ける前に急いで売ってしまおう」という発想も危険です。決済に司法書士が立ち会う以上、意思確認は避けて通れません。ちなみに、親族間で名義だけ先に移そうとするケースも見かけますが、これも同じ壁にぶつかります。名義変更は登記であり、登記には本人の意思確認が伴うからです。
注意:「実印と権利証があるから大丈夫」は誤解です。意思能力を欠いた契約は、書類がそろっていても無効になります。
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家族が親の不動産を売れない理由は、所有者本人以外に処分権がないからです。親子であっても法律上は別人格であり、代理権の裏付けがなければ売主になれません。この状態がいわゆる資産凍結で、認知症高齢者の増加とともに件数が伸び続けています。
資産凍結の法的根拠は、意外なほどシンプルです。民法3条の2は、意思表示をした時点で意思能力を有しなかった場合、その法律行為は無効になると定めています。たった一行の条文。しかしこれが数千万円の資産を動かせなくします。
ポイントは、無効は「後から誰でも主張できる」という点にあります。決済が終わり、代金も入り、買主が住み始めた後でも、他の相続人が無効を主張すれば紛争になる。だからこそ司法書士も不動産会社も慎重になるわけです。取引の安全を守る仕組みが、結果として家族の手足を縛っているという構図。
この壁にぶつかっている人がどれくらいいるのか。最高裁判所事務総局家庭局の令和7年(2025年1月〜12月)集計に、はっきりとした数字が出ています。
ここで注意したいのは、申立ての動機が複数回答である点です。最多は預貯金等の管理・解約で93.4%(39,871件)。つまり「不動産だけが理由」で申し立てる人ばかりではなく、多くは銀行窓口で預金が下ろせなくなった時点で動き出し、そこに不動産の問題が重なっています。年間1万5千件超が不動産の処分を理由のひとつに挙げている、という読み方が正確でしょう。
母数の話をします。厚生労働省研究班の推計では、2022年時点の認知症高齢者は約443万人、MCI(軽度認知障害)が約559万人。合計すると1,000万人を超え、65歳以上の約3.6人に1人が認知症またはその予備群という計算になります。将来推計は別系列で、2025年に471万人(高齢者の12.9%)、2040年に584万人(14.9%)と見込まれています。
地元の数字も見ておきましょう。さいたま市の発表(令和7年9月12日)によれば、市内の高齢者人口は過去最高の316,705人、高齢化率は23.38%。埼玉県全体では2025年の高齢化率が27.8%になる見込みです(埼玉県公表)。県の高齢化スピードは全国でも上位で、大宮・上尾・越谷といったエリアで「親名義の土地が動かせない」という相談が増えるのは、構造的にほぼ確実だと考えられます。
法定後見で実家を売る手続きは、後見開始の申立てと居住用不動産処分許可の申立てという二段構えです。後見人が選任されただけでは自宅は売れません。売却の相手方と価格を決めたうえで、改めて家庭裁判所の許可を取る必要があります。この二段構えを知らずに動くと、決済日が読めなくなります。
全体の流れを押さえておきましょう。順序を間違えると手戻りが発生します。
実務上のコツは、5と6の順番です。裁判所は「誰にいくらで売るのか」が固まっていないと許可の判断ができません。そのため、売買契約には「家庭裁判所の許可が下りなければ契約は白紙」という停止条件を必ず入れます。この条項がないまま契約すると、許可が下りなかった場合に違約金の問題が起きる。ここは仲介業者の力量が出るところです。
ここが最大の落とし穴です。「親はもう施設に入っていて、実家は空き家。だから居住用ではないでしょう」——この理解は、かなりの確率で間違っています。
裁判所の実務では、居住用不動産の該当性を現在の居住実態だけで判断していません。過去に生活の本拠としていた住居や、将来戻る可能性がある家も居住用不動産に含めて扱われます。本人の生活史や心理的な基盤と結びついた不動産かどうかが重視されるためです。施設入所後の空き家となった実家は、原則として許可が必要と考えておくのが安全でしょう。
判断に迷うなら、後見人(多くは司法書士か弁護士)を通じて家庭裁判所に事前照会するのが確実です。正直なところ、この該当性の線引きは事案ごとの幅があり、「このケースは絶対に不要」と言い切れる場面は多くありません。
迷ったら許可を取る。これが実務の鉄則です。不要な物件で許可を取っても不利益はありませんが、必要な物件で取り忘れれば売買が無効になります。
時間の見積もりは、売却計画の生命線です。最高裁の令和7年集計によれば、後見開始等の審理期間は1か月以内が37.9%、2か月以内が71.1%、4か月以内で93.8%が終局しています。ただしこれは後見開始までの数字。ここに居住用不動産処分許可の申立てと審理が上乗せされます。
加えて、申立て前の準備にも時間がかかります。診断書の取得に2週間から1か月、必要書類(戸籍・住民票・登記事項証明書・財産目録・収支予定表)の収集にさらに数週間。相談開始から決済まで、現実的には5〜8か月を見込むべきです。「来月末までに現金化したい」という相談には、正直、この制度では応えられません。
初期費用そのものは高くありません。後見開始の申立手数料が収入印紙800円、登記嘱託手数料が収入印紙2,600円。そして居住用不動産処分許可の申立てに、別途800円がかかります(元記事ではこの二重の手数料構造が抜けていました)。ほかに郵便切手と診断書代が実費として発生します。
問題は継続コストのほうです。令和7年の集計では、成年後見人等に選任されたのは親族以外が83.6%(35,718件)。内訳は司法書士33.5%、弁護士24.9%、社会福祉士20.4%と続きます。専門職が就けば報酬が発生し、東京家庭裁判所が公表している「報酬額のめやす」(全国的な参考基準として広く参照されています)では基本報酬が月2万円、管理財産1,000万〜5,000万円で月3〜4万円、5,000万円超で月5〜6万円。
鑑定について補足しておくと、「高額な鑑定が必要」というイメージは実態と合っていません。96.6%の事件は診断書だけで判断されており、鑑定が実施されるのは3.4%。実施された場合でも費用は10万円以下が85.8%です。むしろ怖いのは月々の報酬が20年続く可能性のほう。
意外と間違えやすいのが、どの裁判所に申し立てるかです。申立先は本人の住所地を管轄する家庭裁判所になります。埼玉県内でも一律ではありません。
| 本人の住所地 | 申立先 |
|---|---|
| さいたま市全域・上尾市・桶川市・北本市・蓮田市・鴻巣市・伊奈町 | さいたま家庭裁判所(本庁) |
| 川口市・蕨市・戸田市・朝霞市・志木市・和光市・新座市 | さいたま家庭裁判所(本庁) |
| 越谷市・春日部市・草加市・八潮市・三郷市・吉川市 | さいたま家庭裁判所 越谷支部 |
| 久喜市・加須市・幸手市・白岡市・宮代町 | さいたま家庭裁判所 久喜出張所 |
大宮区の実家なら本庁、越谷市の実家なら越谷支部です(裁判所の管轄区域表による。2026年8月時点)。同じ埼玉県内、同じ「東部エリア」でも窓口が変わるため、書類を持ち込む前に確認しておきたいところ。なお、簡易裁判所は大宮簡裁・越谷簡裁と分かれていますが、後見の申立先は家庭裁判所です。混同しないようご注意ください。
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家族信託とは、親が子に財産の管理・処分権限を託しておく契約です。親が認知症になった後も受託者である子の名義で不動産を売却でき、家庭裁判所の許可も後見人報酬も発生しません。ただし契約締結時点で親に判断能力があることが絶対条件で、失った後では組めません。
家族信託の登場人物は3者です。財産を託す親が「委託者」、預かって管理する子が「受託者」、利益を受け取る人が「受益者」。親の認知症対策では、委託者と受益者をどちらも親にする設計が基本になります。
この形にすると、不動産の名義は受託者である子に移りますが、経済的な利益は親のもの。したがって信託した時点では贈与税も不動産取得税もかかりません。売却したときの代金も受益者である親の財産として扱われ、施設入居費や医療費に充てられます。名義と実質を分離する、というのが信託の本質です。
費用は後見と構造がまったく違います。初期にまとまった額がかかり、その後の継続費用が原則ゼロ(親族が受託者の場合)。不動産を含む一般的な設計で、コンサルティング報酬・契約書作成・公正証書化・信託登記を合わせて50万〜100万円程度が目安とされています。
これに登録免許税が加わります。信託登記の税率は建物が固定資産税評価額の0.4%、土地は0.3%。土地の0.3%は軽減措置で、本則は0.4%です。軽減の適用期限は令和11年3月31日まで(令和8年度税制改正で延長されています)。
では、後見と比べてどちらが安いのか。仮に月4万円の後見人報酬が15年続けば720万円。信託の初期費用が100万円なら、単純比較では信託に軍配が上がります。ただしこれは後見が長期化した場合の話で、本人が高齢で余命が短いケースでは逆転します。総額の分岐点は、本人の年齢と健康状態。
ここが競合記事でもほとんど触れられていない部分です。家族信託には、譲渡所得の特例との相性という盲点があります。
まず良いほうから。親が住んでいる自宅を信託し、受益者である親が居住したまま売却する場合、居住用財産の3,000万円特別控除は要件を満たせば適用できるとされています。信託受益権のまま売却したケースでも適用が認められた例があります。
問題は相続後です。親が亡くなった後に空き家となった実家を売る際の「被相続人の居住用財産(空き家)に係る3,000万円特別控除」については、信託が継続していると要件を満たさず使えないという指摘があります。同特例は相続人が相続により家屋と敷地を取得することを要件としており、信託受益権の承継はこれに当たらないという整理です。
注意:この論点は税務専門家の間でも整理が分かれる領域で、当社として断定はできません。信託を組む前に、必ず税理士に「空き家特例を使う可能性があるか」を確認してください。
空き家特例の控除額は最大3,000万円。譲渡益が出る物件なら数百万円単位で税額が変わります。信託の初期費用100万円を惜しんだ結果ではなく、信託を組んだ結果として特例を失う——この逆転は避けたいところです。
万能ではありません。信託は財産管理の道具であって、身の回りの契約をカバーする制度ではないからです。具体的にできないことを挙げます。
特に見落とされがちなのが損益通算の制限。信託した収益不動産で赤字が出ても、その損失は他の所得と通算できず、翌年への繰越もできません。アパートやマンションを信託する場合は、この点を必ず税理士に確認しておきたい。家族信託は「不動産の凍結対策」に特化した道具と理解するのが、いちばん実態に近いはずです。
任意後見は、判断能力があるうちに自分で後見人を指名しておく契約です。家族信託でカバーできない身上監護と信託外財産を担当させられるため、併用が実務の基本形になります。ただし利用率はきわめて低く、令和7年時点の利用者は2,833人にとどまっています。
任意後見契約は、公正証書で作成することが法律上の必須要件です。当事者だけで作った私文書では効力が生じません。費用は2025年10月1日の公証人手数料令改定で見直されました。
改定前は基本手数料11,000円、登記嘱託1,400円でしたから、2025年10月以降に契約する方は新料金が適用されます。専門家に文案作成を依頼する場合の報酬を含めても、総額で十数万円から20万円台に収まるのが一般的でしょう。家族信託より初期費用は軽い。
数字を並べると、この制度の使われ方の歪さが見えてきます。成年後見制度全体の利用者259,901人のうち、任意後見はわずか2,833人。比率にして1.1%です。
伸び率も鈍い。令和7年の申立件数を見ると、補助開始が前年比9.1%増、保佐開始が6.4%増、後見開始が1.6%増と伸びているのに対し、任意後見監督人選任の申立ては881件で0.8%増にとどまります。事前に備える制度だけが動いていない。
なぜか。最高裁の集計を読むと、申立ての動機の93.4%が預貯金等の管理・解約という事実に行き当たります。つまり多くの家族は、銀行の窓口で止められて初めて制度を知る。「気づいたときには選択肢が1つしか残っていない」の統計的な正体がここにあります。筆者の見解ですが、この1.1%という数字こそ、この記事で最も直視すべき数字だと思います。
実務で合理的とされるのは、役割分担です。信託と任意後見は競合するものではなく、守備範囲が違います。
| 対象 | 担当させる制度 |
|---|---|
| 自宅・収益物件・信託した金銭 | 家族信託 |
| 施設入所契約・介護保険の手続き | 任意後見 |
| 信託していない預貯金・年金口座 | 任意後見 |
| 死後の財産承継の指定 | 家族信託・遺言 |
この設計にしておけば、不動産の機動性を保ちながら、施設入所の手続きも滞りません。両方を同じ日に公証役場で作成するのが効率的です。費用は重複しますが、片方だけで進めて後から穴に気づくより、はるかにましでしょう。
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2026年6月17日に「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が成立し、6月24日に公布されました。2000年の制度創設から26年ぶりの抜本改正です。不動産の観点で決定的なのは、後見が「必要がなくなれば終わる」制度に変わる点。ただし施行日はまだ決まっていません。
法務省の公表資料によると、改正の柱は成年後見制度の見直しと遺言制度の見直しの2本立てです。後見関連では、後見および保佐の制度を廃止して補助に一元化し、本人にとって必要な範囲でのみ利用できる形に組み替えます。
| 論点 | 現行 | 改正後 |
|---|---|---|
| 類型 | 後見・保佐・補助の3類型 | 補助に一元化 |
| 権限 | 後見人に包括的代理権 | 審判ごとに個別付与 |
| 終了 | 原則、本人の死亡まで | 必要がなくなれば取消し可 |
「必要な範囲で、必要な期間だけ」という設計思想への転換だと理解すればいいでしょう。
不動産の実務にとって最大の変化がこれです。現行制度では、実家を売るために後見を申し立てると、売却が終わっても後見は続きます。本人が亡くなるまで、専門職への報酬を払い続ける。この一点が、多くの家族に申立てをためらわせてきました。
改正後は、必要がなくなったと家庭裁判所が判断すれば制度を終了できる道が開かれます。「介護費用のために実家を売る」という目的が達成されれば終われる——つまりスポット利用が現実味を帯びるわけです。月4万円×20年という最悪シナリオの重みが、大きく下がります。
ただし、良い変化ばかりではないかもしれません。改正では、補助人に本人の意向を把握し尊重する義務が明文化されます。これは制度の理念としては正しい方向です。
一方で、不動産売却の場面では逆風になる可能性がある。本人が「この家を手放したくない」と言っている場合、介護資金が足りないという理由だけで売却許可を得るのは、従来より難しくなるのではないか。ここは条文と運用指針が出そろっていない段階の推測であり、確定情報ではありません。筆者の見立てとして区別して読んでください。
では、改正を待つべきなのか。答えははっきりしています。待てません。
法務省の公表によると、成年後見制度の見直しに係る改正の施行日は「公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日」。公布日が2026年6月24日ですから、遅くとも2028年12月24日までに施行されますが、具体的な日付は未定です。2年半後かもしれないし、来年かもしれない。この点は現時点で誰にも分かりません。
そして今日相談に来られた方が使えるのは、当然ながら現行制度です。先ほど「スポット利用が現実味を帯びる」と書きましたが、それは施行後の話。介護施設の入居金の支払い期限は待ってくれません。余談ですが、遺言制度のほうは押印の任意化が公布から1年以内、保管証書遺言の創設が3年以内と、こちらも段階施行です。
3制度の総コストは、初期費用ではなく「継続費用×期間」で決まります。法定後見は初期3,400円程度と安いものの月2〜6万円が続き、家族信託は初期50万〜100万円で継続費用が原則ゼロ。そして忘れてはならないのが譲渡所得税で、こちらは制度コストより金額が大きくなることがあります。
数字を並べて比べます。金額は2026年8月時点の一般的な目安で、専門家報酬は依頼先により幅があります。
| 手段 | 初期費用 | 継続費用 | 10年間の概算 |
|---|---|---|---|
| 法定後見 | 印紙3,400円+診断書代等 | 月2〜6万円 | 240万〜720万円 |
| 家族信託 | 50万〜100万円+登録免許税 | 原則なし | 50万〜100万円 |
| 任意後見 | 公正証書13,000円+十数万円 | 監督人報酬(家裁決定) | 発効後の期間次第 |
この表を見て、家族信託が常に有利だと結論づけるのは早計です。信託が有利になるのは、後見が長期化した場合だけ。90歳を超えた親に100万円かけて信託を組むのが合理的かどうかは、正直、ケースバイケースでしょう。
制度コストより金額が大きくなりうるのが譲渡所得税です。ここには2つの特例があり、どちらを使えるかは売るタイミングで決まります。
相続空き家の3,000万円特別控除は、適用期限が令和9年(2027年)12月31日で、かつ相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡であることが必要です(国税庁タックスアンサーNo.3306)。譲渡対価1億円以下などの要件もあります。すでに相続が発生している空き家をお持ちなら、期限まで残り1年半を切っている計算になる。
最後に、ほとんど知られていない実務論点をひとつ。成年後見人が居住用不動産を売却する際にかかった「売却許可申立ての費用」は、譲渡所得の計算上、譲渡費用として控除できます。
根拠は国税庁(東京国税局)の文書回答事例です。租税特別措置法33条の3の「資産の譲渡に要した費用」の範囲について、居住用不動産の処分には家裁の許可が法律上必ず必要であり、許可がなければ売買は無効になる以上、許可申立ては売却のために不可欠な支出として譲渡費用に該当すると整理されています。
金額としては大きくありません。印紙代800円と、後見人(司法書士等)への申立て報酬程度。それでも、こうした一次ソースに基づく取り扱いを知っているかどうかで、確定申告の精度は変わります。実際の申告にあたっては税理士にご確認ください。
本記事は制度の一般的な解説であり、個別の法律判断・税務判断ではありません。当社は法律事務所・税理士事務所ではないため、具体的な手続きは弁護士・司法書士・税理士にご相談ください。
空き家・空き店舗から市街化調整区域まで。なんでもご相談ください!
認知症と不動産の問題は、判断能力があるうちは選択肢が多く、失った後は1つしかありません。この非対称性が本質です。今日できることを順番に並べます。
特に5番目を強調しておきたい。売る・売らないを決める前に、その不動産が今いくらなのかが分からなければ、施設費用の資金計画も、信託に100万円かける価値があるかの判断も立ちません。査定は売却の申し込みではなく、現状把握のための情報収集です。
先ほど「時間が最大の敵」と書きましたが、もう一点だけ付け加えます。判断能力の低下は、ある日突然ではなく、じわじわ進みます。だからこそ家族は「まだ大丈夫」と思い続け、気づいたときには選択肢が消えている。任意後見の利用率1.1%という数字が、その積み重ねの結果です。
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